くる病・骨軟化症の治療方法
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くる病・骨軟化症の治療の目標
くる病
- O脚、X脚の改善
- 成人になったときの身長をできる限り低くならないようにする
骨軟化症
- 骨の痛みの緩和
- 筋力低下の防止
- 骨折、偽骨折(骨を横断しない骨折)の防止・治癒
治療法はくる病・骨軟化症の原因によって異なります
ここでは原因*ごとの治療法を紹介します。
*原因について詳しくは「くる病・骨軟化症の3つの原因と疾患」をご覧ください。
これらの原因のうち、くる病の症例の多くがビタミンD不足です。ビタミンDが体の中で働かないケースの頻度はまれで、腎臓でリンの再吸収に異常があるケースの頻度はごくまれと言われています。
ビタミンD不足の場合
ビタミンD不足が原因となる「ビタミンD欠乏性くる病・骨軟化症」の場合は、ビタミンDを補充する治療(医師が処方する活性型ビタミンD製剤など)を行います1)-3)。小児ではビタミンD不足によって低カルシウム血症をきたすことがあり、その場合、カルシウム製剤が処方されます1)-2),4)。
また、日常的にビタミンDの摂取が足りないようであれば、以下のような日常生活の指導を受けることもあります1)-3)。
- 天然型ビタミンDのサプリメントを薬局で購入して服用する(医師が医薬品として処方できる天然型ビタミンDがないため)
- ビタミンDを多く含んだ食材(キノコ類や卵、魚類など)やカルシウムが多く含まれた食材(乳製品、魚介類など)を食べる
- 適度に日光浴をする
治療中は、血液や尿の検査でカルシウムやリン、アルカリホスフォターゼなどの値や、レントゲン検査で骨端線の拡大や毛羽立ちなどのくる病変化を確認しながら、薬の量を調整します1)-2)。活性型ビタミンD製剤やカルシウム製剤を服用する場合は、高カルシウム血症、高カルシウム尿症、腎石灰化や尿路結石などの副作用に注意する必要があります1)-2)。
くる病変化や血液、尿の検査結果が改善すれば、治療は終わります。治療後は紹介した日常生活の指導内容を意識しながら生活して、ビタミンDが不足するのを防ぎましょう1)。
ビタミンDが体の中で働かない場合
ビタミンDが体の中で働かない「ビタミンD依存性くる病・骨軟化症」の場合は、1型(腎臓でビタミンDの活性化にかかわる酵素の異常が原因)か2型(ビタミンD受容体の異常)かで治療法が異なります5)。
1型の患者さんには、活性型ビタミンD製剤が処方されます5)。薬の量は血液や尿の検査でカルシウムやリンの値の変化、症状をみながら調整されます。2型の場合、大量の活性型ビタミンD製剤を投与すると症状が改善するケースがある一方で、活性型ビタミンD製剤が効かないケースもあります5)-7)。その場合は経口や注射でカルシウム製剤を投与し、副作用に注意しながら治療を行います5)-7)。活性型ビタミンD製剤、カルシウム製剤の主な副作用は、高カルシウム血症や高カルシウム尿症、腎石灰化や尿路結石などです5)-6)。
「ビタミンD依存性くる病・骨軟化症」は遺伝子の異常によって発症するので、基本的には生涯に渡って薬を服用し続ける必要があります。ただし、2型では自然に治る例もあります5)-6)。
腎臓でリンの再吸収に異常がある場合
腎臓でリンの再吸収に異常があるために血中のリンが低下して起こる「くる病・骨軟化症」には線維芽細胞増殖因子23(fibroblast growth factor 23: FGF23)が原因で発症する『FGF23関連低リン血症性くる病・骨軟化症』や、尿細管の機能に生まれつき、または生後に異常が生じて発症する『ファンコーニ症候群』などがありますが、ここでは『FGF23関連低リン血症性くる病・骨軟化症』の治療法を詳しく紹介します。
FGF23関連低リン血症性くる病・骨軟化症は、先天性(生まれつき発症している)と後天性(生まれた後から発症する)の2種類があり、治療法が少し異なりますので、代表的な疾患に対する治療法を紹介します。
- 先天性の代表的疾患;X染色体連鎖性低リン血症性くる病・骨軟化症(X-linked hypophosphatemic rickets/osteomalacia:XLH)
- 後天性の代表的疾患;腫瘍性くる病・骨軟化症(tumor-induced rickets/osteomalacia:TIO)
XLHの治療法
XLHの治療法は大きく2つに分けられます7)-10)。
リン酸製剤や活性型ビタミンD製剤による補充療法、ならびに疾患の原因である過剰なFGF23に作用してその働きを妨げる薬があります。
リン酸製剤や活性型ビタミンD製剤7)-10)
FGF23の過剰作用によって尿への排せつが多くなっているリンを補充すること、また、食物中からのリンの吸収をよくすることを目的として、リン酸製剤や活性型ビタミンD製剤が処方されます7)-10)。リンの補充による血中リン濃度の上昇は1-3時間で元に戻ります。そのため1日に複数回(理想的には4~6回)リン酸製剤を服用します7)-10)。
この治療法は、病気自体を根本的に治す治療ではなく、生涯にわたる服用が必要です7)-10),12)。
FGF23に作用してその働きを妨げる薬8)-10),12)-13)
過剰に分泌されたFGF23(腸でのリンの吸収や腎臓でのリンの再吸収を妨げる)に直接作用する薬により、FGF23の働きを抑制する治療法です12)-13)。リン酸製剤や活性型ビタミンD製剤と同様に生涯にわたる投与が必要です12)-13)。
TIOの治療法
TIOの治療の第一選択は、手術で原因となる腫瘍を周囲組織も含めて切除することです10)-11),13)。
FGF23を産生する腫瘍は血中リン濃度を感知する機構に問題が生じているため、腫瘍がわずかでも残ってしまうと、残ったわずかな腫瘍が血中のリン濃度を低下させるほど過剰なFGF23を分泌してしまい低リン血症が改善しません10)-13)。そのためFGF23産生腫瘍を切除する場合には周囲の組織も含めた拡大切除を行う必要があり、腫瘍だけを取り出す『核出術』や、腫瘍を削り出す『掻把術』は避けなくてはなりません13)。このような拡大手術により腫瘍を完全に取り除くことができれば、TIOは完治し、治療はそこで終わります10)-11),13)。手術後約1-1.5年で骨の石灰化状態が元に戻ります14)。
しかし、原因となる腫瘍は1cm以下と小さいことが多く、見つけにくい場所にある、または切除が難しい場所に発生することもあるため、手術できないことや、上に書いたように腫瘍が残ってしまい低リン血症が改善しないことや、手術後にわずかに残っていた腫瘍が再増大して一度改善した低リン血症が再発することもあります10)-13)。また一部の症例は悪性のFGF23産生腫瘍であるため既に肺などに転移していて手術ができないこともあります11),13)。このような場合は、XLHと同様に、経口薬や注射薬での治療を行います11),13)。
医師とよく相談しながら治療を進めていきましょう。
治療をうまく生活の中に組み入れて習慣づけ、できる限り医師の処方通りに治療を継続することが何よりも大切です。実際にどの治療法を選択するかは、医師とよく相談して決めましょう。
FGF23関連低リン血症性くる病・骨軟化症に関して相談できる医療機関は「」をご覧ください。
1) 原田大輔,難波範行.小児科臨床.2017;70(1):43-49
2) 大薗恵一.ホルモンと臨床.2012;60(9):59-65
3) 福本誠二.モダンメディア.2019;65(3):54-57
4)一般社団法人 日本小児内分泌学会HP|学会ガイドライン カルシウムとビタミンD関連疾患(2)ビタミンD欠乏性くる病・低カルシウム血症の診断の手引き(最終閲覧日:2020年4月30日)
http://jspe.umin.jp/
5)北中幸子.最新医学.2016;71(10):51-56
6)北中幸子.ホルモンと臨床.2012;60(7):77-82
7) 山本威久.最新医学.2016;71(10):44-50
8) 道上敏美.小児科臨床2018:59(13):1911-1915
9) 原田大輔,難波範行.CLINICAL CALCIUM.2016;26(2):91-98
10) 木下祐加.Pharma Medica 2019;37(2)85-89
11) 福本誠二.日本臨牀2018;別冊 内分泌症候群(第3版)Ⅱ:368-371
12) 福本誠二.整形・災害外科2019;62(2):187-190
13)伊東伸朗.内分泌・糖尿病・代謝内科 2019;48(4):289-296
14)Minisola S, et al. Nat Rev Dis Primers 2017;3:17044:1-15
この記事の監修ドクター
長谷川 行洋先生
- 東京都立小児総合医療センター 内分泌・代謝科 医師
- 多摩北部医療センター 小児科 医師
伊東 伸朗先生
- 東京大学医学部大学院医学系研究科 難治性骨疾患治療開発講座 特任准教授(研究室HP)
- 東京大学医学部附属病院 骨粗鬆症センター 副センター長