くる病・骨軟化症の3つの原因と疾患
くる病・骨軟化症は主に体内でのリンやカルシウムの不足から骨の石灰化が妨げられることによって発症します。リンやカルシウムが不足する原因として、大きく以下の3つが挙げられます。
→骨が作られるしくみについては「くる病・骨軟化症とは」をご覧ください。
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①体内のビタミンDが不足している:ビタミンD欠乏性くる病・骨軟化症
ビタミンDの摂取が不足したり日光浴の時間が短かったりすると体内のビタミンDが足りなくなり、くる病・骨軟化症を発症することがあります。このタイプを『ビタミンD欠乏性くる病・骨軟化症』といいます。
人はビタミンDを食事から摂取するほか、日光に含まれる紫外線のエネルギーを使って皮膚近くでビタミンDを作っています(図1)。食事でとりこまれた、また、体内で作られたビタミンDは肝臓や腎臓などで活性型ビタミンDに形を変え、血液中のリンやカルシウム濃度を調節しているのです(図2)。
図1
図2
ビタミンD欠乏性くる病・骨軟化症の症状は、O脚やX脚といった下肢の変形、歩行障害、関節の腫れ、成長障害(低身長)などです。またビタミンDが足りなくなり、血液中のカルシウム濃度が低くなると、低カルシウム血症となって、けいれんや手足のしびれ(テタニー)が現れることもあります。
ビタミンDが活性化する流れ
図2に示しているように、食事でとりこまれた、また、体内で作られたビタミンDは、2つの過程を経て活性型ビタミンDになります。
1) 肝臓でビタミンDの活性化にかかわる酵素(25水酸化酵素)の作用によって25水酸化ビタミンD(25OHD)に変化
2)さらに腎臓、腸管、骨などで同じくビタミンDの活性化にかかわる酵素(1α水酸化酵素)の作用によって、活性型ビタミンD[1,25(OH)2D]に変化
上の過程を経て活性化された活性型ビタミンDは、腸管や腎臓、骨、副甲状腺などにあるビタミンD受容体と結合して初めて、血液中のリンやカルシウムの濃度維持などに寄与することが可能になります。
②ビタミンDが体の中で働かない:ビタミンD依存性くる病・骨軟化症
必要な量のビタミンDが体内にあってもうまく機能しないためにくる病・骨軟化症を発症することがあります。このタイプを『ビタミンD依存性くる病・骨軟化症』といいます。この疾患は遺伝性の疾患とされています。
ビタミンD依存性くる病・骨軟化症は以下の二つのタイプに分けられます。
- 1型:腎臓でビタミンDの活性化にかかわる酵素(1α水酸化酵素)の異常
- 2型:ビタミンD受容体の異常
ビタミンD依存性くる病・骨軟化症の原因となる1α水酸化酵素やビタミンD受容体の異常は、生まれつきのものです(遺伝子の変異)。
1型、2型ともにO脚やX脚といった下肢の変形、成長障害(低身長)、低カルシウム血症によるけいれんやテタニーなどを発症します。また2型を発症した乳幼児には、髪が生えてこない(禿げ頭)などの症状がみられることがあります。
③腎臓でリンの再吸収がうまくいかない:低リン血症性くる病・骨軟化症
リンは骨の形成に欠かせないミネラルの一つです。血中のリンが何らかの原因で低下してしまうと骨の石灰化がうまくいかなくなり、くる病・骨軟化症を発症することがあります。このタイプを『低リン血症性くる病・骨軟化症』といいます。
血中のリンの濃度は図3のように、
- 腸での吸収(食事でとりこまれたリンは腸で吸収されます)
- 腎臓での再吸収・排せつ
- 血中から骨や細胞への移動
などを通して、一定の範囲になるように調節されています。
図3
血中のリンが低くなる原因は
- 腎臓の尿細管の異常によって、リンが再吸収されず、そのまま尿に排せつされる。
- ホルモンの一種で血中のリンを調節する線維芽細胞増殖因子23(fibroblast growth factor 23: FGF23)が過剰に作用して、腸での吸収や腎臓での再吸収が妨げられ、リンが体内に吸収されず、過剰に尿に排せつされる。
- リンの摂取不足
などが挙げられます。
FGF23が原因で発症するタイプは、『FGF23関連低リン血症性くる病・骨軟化症』といいます。このタイプについては「FGF23関連低リン血症性くる病・骨軟化症とは?」で詳しく紹介していますのでご覧ください。
低リン血症性くる病・骨軟化症の症状はO脚やX脚といった下肢の変形、成長障害(低身長)、関節腫脹、筋力低下や骨の痛み(ともに骨軟化症で特徴的)などになります。
この記事の監修ドクター
伊東 伸朗先生
- 東京大学医学部大学院医学系研究科 難治性骨疾患治療開発講座 特任准教授(研究室HP)
- 東京大学医学部附属病院 骨粗鬆症センター 副センター長