FGF23関連低リン血症性くる病・骨軟化症と診断された成人の方へ
くる病・骨軟化症のうち、FGF23関連低リン血症性くる病・骨軟化症と診断された患者さんは継続して治療を続ける必要があります。患者さんが治療を受ける上で、疾患をどのように捉えればよいのか、日常生活のどのような点に注意すべきか、分からなかったり悩まれたりする方も多いかと思います。
こうした点について、専門の先生にお話を伺いました。
お答えいただいた先生
伊東 伸朗 先生(東京大学医学部大学院医学系研究科 難治性骨疾患治療開発講座 特任准教授、東京大学医学部附属病院 骨粗鬆症センター 副センター長)
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治療法はあるので治療すれば痛みはコントロールできる
腫瘍性骨軟化症(tumor-induced osteomalacia:TIO)やX染色体連鎖性低リン血症性くる病・骨軟化症(X-linked Hypophosphatemic Osteomalacia:XLH)などのFGF23関連低リン血症性くる病・骨軟化症は、難病に指定されている疾患ですが、治療法が全くないものではありません。
TIOであれば骨や軟部組織にできた腫瘍が原因ですので、腫瘍を手術で周囲組織も含めて取り除ければ、ある程度進行した骨の変形を元に戻すことは難しくとも痛みは時間とともになくなります。また、手術で取り切れなかったり、手術できないような場所に腫瘍があったりした場合でも、リン酸製剤や活性型ビタミンD製剤の服用、あるいは、FGF23の働きを妨げる薬(抗FGF23中和抗体)の注射による治療法で、骨折や偽骨折(骨を横断しない骨折)の治る期間が早まることがあります。
XLHは子どものときに診断がついて治療される患者さんが多いですが、子どもの頃は症状が軽く成人になってから骨折や異所性骨化症(股関節周囲の骨棘形成や前縦/後縦/黄色靭帯骨化症、腱付着部症)などにより初めて診断されることや、治療を中断していたために症状が悪化することがあります。そうした患者さんもTIOと同じくしっかり治療することで、骨折や偽骨折による痛みはコントロールすることができるようになります。
この疾患の治療法はこれまでに集積されてきた経験が多くありますので、診断がしっかりとついた患者さんは、あまり思い悩む必要はないかと思います。
リンは必要以上に摂取しなくても大丈夫
何か栄養素が足りていないと、「食事で補わなければ」とイメージされる方もいることでしょう。一般の方は必ずしも医学知識があるわけではないため仕方のないことですし、内分泌を専門としていない医師の中にもこうした考えを持っている方はいます。
栄養素のなかには食事から摂取し維持していくものもある一方で、リンやカルシウムなどといった電解質の多くは最終的には血中のホルモンの作用によって調整されています。従って、リンやカルシウムを含む食事が極端に少ないという事態は避けるべきですが、一般的には血液中のリン濃度やカルシウム濃度が低下する病気が、これらを含む食事を過剰に摂取することで改善するわけではありません。血液中のリンやカルシウムを調整するホルモンを標的とした治療が必要となってきます。
FGF23関連低リン血症性くる病・骨軟化症は、リンを下げるホルモン(FGF23)が過剰に働いている状態です。治療には原因となるFGF23産生腫瘍を取り除いたり(TIOの場合)、抗FGF23中和抗体を投与したりしてホルモンそのものを調整する方法や、リン酸製剤や活性型ビタミンD製剤をタイミングや量を調整して服用し、血中のリン濃度を上げる方法があります。
これらの治療を行っていれば、食事からリンを無理に取る必要はありません。FGF23関連低リン血症性くる病・骨軟化症のような低リン血症を起こす疾患に対して、食事でのリン摂取を増やそうとする努力は非常に非効率的で現実的ではありません。食事を気にする必要はないということを患者さんに知っていただければと思います。
薬は飲み忘れず、水分補給は意識して摂取を
血中のリン濃度はリン酸製剤を服用しても1~3時間ほどでピークがきて、その後は元の数値に戻っていきます。より高い効果を求めるためには1日に複数回(理想的には4~6回)リン酸製剤を飲む必要があり、できる限り飲み忘れないよう心掛ける必要があります。
なお、血中リン濃度の正常化を目標として過度に血中リン濃度を高くすると、血液中の副甲状腺ホルモンとカルシウムの上昇を介して腎機能を悪化させる可能性があります。そのため主治医は血中の副甲状腺ホルモンとカルシウムの濃度や腎機能を注意深く観察する必要があります。これは、腎機能は悪化してもなかなか症状が現れず、知らぬ間に深刻な状態になっていることが多いためです。腎機能などの観察に加えて、常日頃から脱水にならないように意識してスポーツドリンクなど塩分が含まれた水分を補給することが大切です。
骨に負荷がかかる運動は避ける
TIOの患者さんのなかには、脊柱管狭窄症や変形性関節症、関節リウマチといった整形外科や膠原病内科など他の領域の疾患と誤って診断されてしまう方が多いです(実際に骨軟化症や続発する二次性骨粗鬆症のために椎体や股関節周囲に骨折をおこし、脊柱管狭窄症や変形性関節症を併発している症例も多く存在します)。
特に脊柱管狭窄症や変形性関節症などと診断された患者さんの場合、医師から「筋力を落とさないように」「しっかり筋肉をつけなさい」といった指導をされることがあります。しかし、重症のTIOの患者さんでは日常生活でも肋骨にひびが入ってしまうような骨の状態です。骨に負荷がかかる運動は極力避けるべきですので、骨軟化症と診断された時点で骨に過度の負荷がかかるリハビリやトレーニングは一切やめてもらっています。
ただ、治療中だからといって寝たきりのままでいると、関節が固まってしまいます。リハビリの専門家と相談しながら、関節の固まりを防ぐ動きや骨に過度の負荷をかけなくてもできる運動に取り組むと良いかと思います。
TIOの場合、治療を開始すれば手術でも薬物治療でも1年から1年半程度で骨の状態を治癒、または改善させることが可能です。その状態になれば、治癒や改善の程度に応じて骨にかかる荷重を増やしてもらっても問題ありません。
日々の歯のケアをしっかりと
この疾患では硬組織の石灰化ができないことで、歯のエナメル質や象牙質が薄くなってしまいます。歯が薄い状態でヒビが入ってしまうと、細菌が歯の神経(歯髄)にまで侵入してひどいむし歯になったり、歯肉膿瘍になって膿が溜まってしまったりすることがあります。
食後の歯磨きを必ず行う、歯科へ定期的に通うなど日々の歯のケアを怠らないようにしましょう。
また歯科に通う際は、通院先の歯科医師が必ずしもFGF23関連低リン血症性くる病・骨軟化症に詳しいわけではありません。歯を削る治療が必要になった場合は、エナメル質や象牙質がくる病・骨軟化症のために薄くなっていることを理解してもらったうえで、よく相談しながら進めた方が良いでしょう。説明するためには患者さんご自身でこの疾患のことをある程度理解しておく必要もあります。
出産は特に問題ないが、疾患がお子さんに遺伝することも
FGF23関連低リン血症性くる病・骨軟化症の患者さんで妊娠・出産を希望される場合は、疾患がどの程度コントロールされているかが重要になります。
TIOで手術して腫瘍が取り切れている、またXLHの治療が安定していれば問題ありません。ただ全身に偽骨折(骨を横断しない骨折)がみられたり、骨痛が強いなど症状の管理が不良な状態であれば、まずは治療を優先し、痛みが抑えられるようになってから妊娠・出産を考えるように伝えています。
またXLHはお子さんに遺伝する確率が約50%となりますので、その点は十分に説明しています。
治療に取り組んで以前のような日常生活を
FGF23関連低リン血症性くる病・骨軟化症で最もつらい症状は、寝返りが打てなかったり歩けなかったりするほどの痛みです。なかには車いすや松葉づえを使わなければ生活できない状態や、さらには寝たきりで過ごすまで症状が悪化することもあります。
その状況でも治療に取り組むことで、仕事への復帰や家事や子育てをこなすまで回復される方もいらっしゃいます。
医師とよく相談しながら、治療を進めて、症状がひどくなる前の生活を取り戻していきましょう。