Cさん(40代 男性/X染色体連鎖性低リン血症性くる病・骨軟化症)

FGF23関連低リン血症性くる病・骨軟化症と診断された患者さんの体験談です。実際の症状や経過には個人差があります。
気になる症状がある方は医師にご相談ください。また必ずしも同じ症状がFGF23関連低リン血症性くる病・骨軟化症と診断されるとは限りません。

Cさん(40代 男性/X染色体連鎖性低リン血症性くる病・骨軟化症)

Cさん(40代 男性/X染色体連鎖性低リン血症性くる病・骨軟化症)

職業:電車車掌
家族構成:子ども1人(息子1人)

18歳頃に治療を中断したら、徐々に悪化
「治療の効果が見えなくても、治療は続けて」

診断と治療の流れ

2歳頃、母の奔走のかいあって受診へ

絶対におかしいと確信した母が病院探しに奔走

最初の受診は2歳の時に遡ります。よちよち歩きを始めるようになっていた僕は、1歩か2歩進むごとに尻もちをついて座りこんでいました。その様子を見た母は、「上の子と明らかに違う。絶対におかしい」と確信したそうです。すぐに近所の診療所や病院を何軒も回りましたが、どの病院でも、歩き始めるのが遅いだけかもしれないと、しばらく様子見とされていたようです。

たまたま近所に、看護師をしている同級生のお母さんがいたので相談をしたところ、地元で有名な整形外科病院を紹介してくれました。そこで受診すると、今までとは全く異なる反応が返ってきました。「気になる病気の症状があるので、大学病院で受診するように」とすぐに手配してくれたそうです。それが、私の通院生活の始まりでした。

大学病院での治療が始まると、薬を毎日内服するようになりました。独特の形状や味だったため、子どもの頃は内服するのが嫌でした。

point

  • 2歳の時、歩き方に違和感を覚えた母に連れられて受診。
  • どの病院でも、歩き始めるのが遅いだけかもしれないと、しばらく様子見となった。
  • 絶対におかしいと確信していた母が、看護師をしている同級生のお母さんに相談。
  • 地元で有名な整形外科病院で受診すると、大学病院で受診するよう勧められた。

高校生の頃、身長が伸びないことなどに悩む

身長を伸ばすための治療に挑戦するものの長く続かず

思春期になると、身長が伸びないことやO脚のせいで少し変わった歩き方になってしまうことが、すごくつらかったです。皆と同じようになりたかった。だから主治医の先生には、「もっと身長を伸ばしてくれ」とか「O脚を治す方法は無いのか?」と、よく無理を言っていましたね。あんまり言うので、先生も「このままいけば、大人になる頃には160cmくらいにはなるよ」と答えてくれたのですが、それでも僕は「170 cm以上は欲しい」と言い続けていたのを覚えています。

高校生になった頃、主治医の先生が「あくまでやってみないと分からないけれど、治療で身長を伸ばせる可能性もある。やってみる?」と聞いてくれました。僕はもちろん「やってみたい」と返事をしました。ちょうど先生が遠方の病院へ異動になるタイミングだったので、異動先の病院までついていって1週間くらい検査入院をしました。退院後は、毎日自宅で注射を打つのですが、看護師をしている同級生のお母さんにも協力してもらったものの長く続けることはできませんでした。

point

  • 思春期の頃は身長が伸びないことやO脚のせいで少し変わった歩き方になることがつらかった。
  • 高校生になると、身長を伸ばすための治療に挑戦するものの長くは続かず。

18歳頃、治療を中断してしまう

治療を中断してから徐々に症状が悪化

物心ついた頃からずっと内服薬での治療を続けてきましたが、治療のおかげで劇的に改善したという感覚はあまりありませんでした。幼い頃に主治医の先生から「骨が成長を続ける18歳までは、治療を続けないといけないよ」と言われた記憶があったため、18歳までは頑張ったけれど、それ以降は「骨の成長も止まったことだし、これ以上治療しても変わらないだろう」と思って、病院には行かなくなりました。

治療を中断してからは、すぐに何か起こったわけではありません。でも年々悪化していったと思います。いつしか歩いていると足全体の骨に筋肉痛に似たようなだるい痛みを感じるようになりました。それでも騙し騙し生活していましたが、30代半ば頃から状態はより悪化していきました。駅から自宅までの徒歩15分の距離でさえ、歩くのが億劫になってバイクや車を使っていました。動くと痛いのでますます動かなくなる。悪循環でしたね。

股関節も動かないせいか、次第に固くなっていき、和式トイレを使う時や物を拾う時にしゃがむことができなくなってしまいました。自転車に乗ってペダルを漕ごうとすると、股関節が固まっているので足を回せない。高校生ぐらいの時には普通にできていたことが、できなくなったのがショックでしたね。18歳頃まで治療していた「くる病」が原因だというのは自分でも何となく分かるけれど、今さら治療のしようがないと諦めて、病院に行くことはありませんでした。

point

  • 18歳を過ぎると、治療をやめてしまった。
  • 治療中断後は徐々に骨痛が強くなる。30代半ば頃になると、歩くのが億劫になっていった。
  • 次第に股関節が固くなってしゃがむことができなくなり、自転車も漕げなくなった。

44歳頃、腰痛により病院へ

リンの値を維持するため、治療を再開

44歳頃、腰が痛いなと思って地元の病院の整形外科にかかったところ「太ももの骨が折れているよ」と指摘されました。でもバイクで転倒したとか車にぶつかったとか、骨折するようなことは起きていない。心当たりと言えば重い荷物を運んだくらいでした。整形外科の先生に、18歳まで「くる病」の治療をしていたことを話すと、「それが原因ではないか」と言われて内分泌科で血液検査を受けました。検査の結果血清リンの値が低いことが分かり、「低リン血症性くる病・骨軟化症」の診断で、治療が開始されました。

僕の骨は、すごく薄くなっているので太く丈夫にしていく必要があるのですが、骨の形成に欠かせないリンが尿に捨てられてしまい不足していたんです。だから血清リンの値を高くすることが治療の目標になりました。薬は、1回飲んで3~4時間経ったら、また飲んで…の繰り返しで、1日3~4回くらい飲んでいましたね。太ももを骨折すると健康な人でも完治まで時間がかかるのですが、1年間治療を続けても折れた骨はくっつきませんでした。

ある時、整形外科の先生が異動するのをきっかけに、18歳まで診てもらっていた昔の主治医の先生を思い出しました。親身になって診てくれた記憶があったので、もう一度あの先生のもとで治療を頑張りたいと思ったんです。インターネットで名前を検索すると、くる病・骨軟化症の世界ではちょっと有名な先生になっていました。思いきって電話をしてみると、先生は僕を覚えていて、「うちにおいで」と言ってくれました。「もう一度診てもらえる。あの頃のように日常生活に支障のない日々に戻りたい」――そう期待して向かいました。

point

  • 44歳頃、太ももを骨折したのをきっかけに骨軟化症の検査を受けた。
  • 低リン血症性くる病・骨軟化症と診断され、内服による治療が始まった。
  • 昔の主治医に「また診てほしい」と連絡したところ、「うちにおいで」と快諾してもらえた。

45歳頃、昔の主治医に再会し診てもらう

昔の主治医のところで、治療を継続

病院へ行き、久しぶりに昔の主治医の先生にお会いしました。「これまで、どうだった?」と聞かれ、18歳で治療をやめて徐々に悪化していったこと、1年前に骨折したこと、そして今は地元の病院で治療を受けていることを話しました。先生には、「今の治療法はそれで良い。間違っていないよ。ただ薬の量が足りていないようだから、もっと増やした方がいいかもしれない」と言われ、薬の量を増やして治療を継続しました。

その先生のもとで治療を始めて1年くらい経った頃、太ももの骨がようやくくっつきました。骨折の痛みから解放されたので嬉しかったですね。

その後も、昔の主治医の先生のもとで、骨軟化症の治療を継続しています。先生の提案で治療法を変更しましたが、良い方向へ向かっていると信じて治療を続けています。

point

  • 久しぶりに昔の主治医と再会し、これまでのことを話す。
  • 薬の量を増やして、治療を継続することに。
  • 先生のもとで治療を始めて約1年後に太ももの骨折が完治。

これからのこと

すぐには効果が見えないし、年月もかかる
それでも治療は続けた方が良い

最近はインターネットで調べると、くる病・骨軟化症の将来的な状態や見通しなどが分かるようになってきました。僕が子どもの頃は「くる病」と言えば「背が伸びない」「O脚になる」くらいの情報しかなくて…。10代の頃は病気のことをもっと知りたかったですね。まだインターネットが一般家庭に普及していなかったので、母に大きな医学書を買ってもらって、そこに載っている情報を読んだりしました。本当は、「この病気は治るのか、治らないのか。治らないとしたら、この先どうなっていくのか」――そんな情報を知りたかったのですが、欲しい情報は得られませんでした。将来どうなるか分かれば、皆もっと積極的に治療するんじゃないかと思います。

今回は僕の経験をお話ししましたが、他の方の経験談も聞いてみたいですね。自分より病状の進んでいる方にどんな症状が出ているのかとか、逆にこの治療法でこんなに良くなったなんて話にも興味があります。そういった情報交換ができる患者コミュニティがあれば参加したいです。

この病気は治療してもなかなか効果が見えにくい。すぐに良くなることはないし年月も労力もかかるけれど、それでも治療はずっと続けた方が良いと思います。僕の場合は治療中断後にしゃがめなくなりましたが、ずっと治療を続けていたら、もう少し良い結果になっていたのかなと思うと、ちょっと後悔もあります。とにかく今は、日常生活に支障が出ない状態にまで回復できたらと思って、主治医の先生と相談しながら頑張って治療しています。

この記事の監修ドクター

伊東 伸朗 先生

伊東 伸朗先生

  • 東京大学医学部大学院医学系研究科 難治性骨疾患治療開発講座 特任准教授(研究室HP)
  • 東京大学医学部附属病院 骨粗鬆症センター 副センター長

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