Aさん(50代 女性/腫瘍性骨軟化症)
FGF23関連低リン血症性くる病・骨軟化症と診断された患者さんの体験談です。実際の症状や経過には個人差があります。
気になる症状がある方は医師にご相談ください。また必ずしも同じ症状がFGF23関連低リン血症性くる病・骨軟化症と診断されるとは限りません。
Aさん(50代 女性/腫瘍性骨軟化症)
職業:主婦
現在同居の家族:夫、子ども3人(娘2人、息子1人)
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歯の不調と足首の痛みに悩まされる
最初の症状は、急なむし歯の増加
今振り返ると、40代になって急にむし歯が増えたのが、最初の症状の現れでした。むし歯を治療していると、その間に他のむし歯ができてしまったり、歯と歯の間隔が開いて、歯がグラグラするようになったりして、とにかく歯医者には頻繁にかかっていましたね。
それから2~3年経った頃、階段で左の足首をくじいて整形外科クリニックにかかりました。先生からは「ねん挫ですね」と言われて治療したのですが、いつまで経っても痛みがおさまらなくて…。最初はちょっと痛いぐらいだったのが、日が経つにつれて激しい痛みに変わっていきました。やがて、くじいた足に体重をかけられなくなって、足を引きずるようにして歩いていましたね。
整形外科の先生に相談して、レントゲン撮影や触診をしてもらったのですが、痛みの原因が分からないまま1年が過ぎました。他の整形外科クリニックも3~4軒くらい回りましたが、行く先々で「おかしいところは何もないです」と言われて途方に暮れましたね。藁にもすがる思いで、かかりつけの内科医を頼ってみましたが、血液検査でも異常がみられないため、心療内科や精神内科の受診を勧められました。でも、それは違うんじゃないかなと思って、私は行きませんでした。
point
- 40代になりむし歯が急に増えた。
- 足をくじいて、ねん挫と診断されたが、痛みは酷くなる一方だった。
- 整形外科クリニックを何軒も訪れたが、原因不明の痛みは一向に解消しなかった。
痛みが持続、だんだん酷くなる
車椅子生活になり、みるみる悪化
整形外科クリニックではずっと鎮痛剤を処方され、内服していました。でも痛みは抑えられませんでした。別の種類の鎮痛剤に変えても、量を増やしても、痛みは持続し、だんだん痛みが酷くなるのを感じました。当時は「痛い、痛い」しか言葉が出ませんでした。
ある日、地域の病院の整形外科でMRIを撮ってもらうと、足首にひびが入っていることが分かりました。足首を固定しなければならないので松葉杖で歩こうとしたのですが、脇に松葉杖を当てて体重をかけると、脇に激痛が走るんです。後から考えると骨軟化症が原因で痛かったんですよね。
結局は車椅子を使うことにしたのですが、状態はどんどん悪くなっていき、立ち上がることすらできなくなってしまいました。手に力が入らないので、ペットボトルの蓋も開けられない。寝返りをうつのさえつらい。みるみる悪くなっていったので、これは明らかにおかしいと思いました。
point
- 痛みが持続し、だんだん痛みが酷くなった。
- MRI撮影をしたところ、足首にひびが見つかった。
- 車椅子生活を始めたが、目に見えて悪化していった。
最初の症状から7年越しで、正しい診断へ
血液検査が診断の道筋に
あまりの痛さにペインクリニックを訪れ、痛みを和らげる注射を何カ所か打ってもらいました。でも半日も経つと再び痛み出す。この治療法でも痛みがコントロールできないんだな、と思いましたね。ペインクリニックの先生にも相談をして血液検査を受けたのですが、そこでALPという検査で骨の異常を示す結果が出たことを教えてもらいました。
その後、かかりつけの内科クリニックを再び訪れて今までのことを話すと、「もしかして、くる病じゃないか?」と先生が気付いてくれたんです。「大人ではすごく稀な病気だけど、でもくる病(骨軟化症)だと思うよ*」と診断をしてくださって…。大人のくる病(骨軟化症)を診ることのできる医師は日本でもあまりいないので、通いやすい病院を探して、その先生宛ての紹介状を書いてくれました。やっと、辿り着けたと思って嬉しかったです。最初の症状が現れてから、この診断に辿り着くまで、およそ7年かかりました。
*「くる病」と「骨軟化症」について:くる病も骨軟化症も、骨を丈夫にする働きが妨げられることで、骨が変形したり骨の痛みなどの症状が現れる病気です。子どもでこのような症状がみられる場合は「くる病」、成人でみられる場合は「骨軟化症」と、呼び分けられています。
point
- 血液検査で、骨の異常を示す結果が出た。
- かかりつけの内科医に話すと、大人のくる病(骨軟化症)ではないかと診断し、紹介状を書いてくれた。
- 最初の症状から約7年かかって、ようやくこの診断に辿り着いた。
手術を実施、徐々に回復
術後3か月くらいで、徐々に歩けるように
紹介してもらった大学病院は、自宅から約1時間の場所にありました。そこで受診すると、病気や治療について色々と教えて頂けました。診断名は正確には「腫瘍性骨軟化症(TIO)」でした。体内にできた腫瘍から分泌される線維芽細胞増殖因子23(FGF23)というホルモンの過剰な働きで、骨の形成に欠かせないリンというミネラルを尿中へ捨ててしまい濃度を低下させ、骨を脆くしたり骨の痛みなどの症状を引き起こすようです。
原因となる腫瘍のある場所を突き止めるため、私の場合は疑わしい部位を一つひとつMRI撮影して調べました。1~2か月見つからないこともあると聞いていたので、あまり焦らずマイペースに過ごすようにしましたね。通院して4か月ほど経った頃、脳の下垂体の近くで、ついに腫瘍が見つかりました。腫瘍を取り去れば症状は治まるということだったので、手術できれいに取って頂きました。
手術後は半月くらいで退院し、3か月もすると、徐々に歩けるようになりました。手術する前は全身が痛くて立ち上がることも難しかったので、立ち上がれて、歩けるようになった時は、本当に嬉しかったです。少しずつ回復して、今は一人で不自由なく歩けるようになりました。痛みをかばって歩く習慣がついていたので、部分的に筋肉が衰えて、少し負担がかかることもありますが問題はないです。お薬は、手術前から活性型ビタミンD製剤を内服していましたが、手術を終えてからは徐々に量を減らしています。
point
- 大学病院で「腫瘍性骨軟化症(TIO)」と診断された。
- MRI撮影で腫瘍のある場所が特定でき、手術で取り去ることができた。
- 術後3か月もすると徐々に歩けるようになり、今は1人で不自由なく歩けるまで回復した。
これからのこと
病名が分かるまでは、
頼る場所が無く、大変だった
今は3か月に1回くらいのペースで通院して、経過を診てもらっています。主治医からは「再発することもあるので、これからも続けて来てくださいね」と言われています。主治医の先生は明るくてとても良い先生ですよ。「一つひとつ順番にやっていきましょうね」という感じで、明るく声をかけてくれます。
病名を突き止めてもらうまでは、本当に大変でした。7年ですから、ずいぶん時間がかかりましたよね。私は、40歳になるまでどこも悪くなかったんです。友人からは「40代になると、身体に急にガタがくるよ」と聞いていたので、最初は「40代になってガタがきたのかな?」くらいにしか思っていませんでした。原因が全く分からなかったので、どこに頼れば良いか分からず、悩みましたね。テレビの健康番組をチェックしては、「もしかして、この病気かな?」なんて思いながら悶々と過ごす日々でした。
「腫瘍性骨軟化症(TIO)」と診断された後は、スマホやパソコンで病名を検索して、治るのか治らないのかといった情報をひたすら調べていました。そんななか、「腫瘍性骨軟化症(TIO)」の新薬開発が進んでいるという話を知りました。当時は治験中だったので私自身は使うことはありませんでしたが、それでも将来の希望を持つことができましたね。
今後は、なるべく再発しないように過ごせていけたら良いなと思っています。私と同じ病気の方で、診断がつかずに病状が進行してしまった方もいると思います。でもTIOは、私のように腫瘍を取り去ることができれば良くなることがあります。どうか希望を捨てずに、治療に取り組んでほしいと思います。
患者さん体験談
Eさん(50代 女性/腫瘍性骨軟化症)
この記事の監修ドクター
今西 康雄先生
- 大阪公立大学大学院医学研究科
- 代謝内分泌病態内科学 准教授