FGF23関連低リン血症性くる病の患者さんが意識したい歯のケアについて

FGF23関連低リン血症性くる病の患者さんが意識したい歯のケアについて

くる病のうち、 FGF23関連低リン血症性くる病と診断された患者さんではO脚・X脚、成長障害が代表的な症状ですが、歯に関する症状も存在します。この疾患は生涯にわたって継続した治療が必要で、歯においても幼少期から保護者の方および患者さんによる日常的なケアに加え、歯科での管理が欠かせません。

一生モノの歯をどのように保っていけばよいのか、FGF23関連低リン血症性くる病と歯の関係や症状などについて専門の先生にお話を伺いました。

お答えいただいた先生
大川 玲奈先生(大阪大学歯学部附属病院小児歯科 副科長/准教授)

FGF23関連低リン血症性くる病の歯はもろい状態

図1 健常児の乳歯とFGF23関連低リン血症性くる病の患者さんの乳歯の断面図

図1 健常児の乳歯とくる病の患者さんの乳歯の断面図

歯は(表面から)エナメル質と象牙質の二層構造になっていて、歯の中心部に歯髄腔しずいくうがあり、神経と毛細血管(体の隅々まで血液を届ける、非常に細い血管)が入っていて、歯に栄養を送る重要な役割があります(図1)。エナメル質と象牙質は石灰化(骨や歯が硬くなること)により硬い組織となりますが、FGF23関連低リン血症性くる病の患者さんでは、この石灰化が妨げられるため健常児と比べて歯がもろい状態になります。特に象牙質で形成が悪くなり(象牙質形成不全)、管状欠損かんじょうけっそんという縦に亀裂のようなものが入る症状がみられることがあります(図2)。

図2:FGF23関連低リン血症性くる病の患者さんにみられる管状欠損

(写真提供:大阪大学歯学部附属病院小児歯科 副科長/准教授 大川 玲奈先生 一部加工 転載禁止)

くる病の患者さんにみられる管状欠損

「歯がもろい」と言っても、見た目に大きな変化は現れません。専門的な歯科医師が十分な診査(診断・検査すること)を行うことでFGF23関連低リン血症性くる病の所見を疑わせるポイントを見つけることができますが、FGF23関連低リン血症性くる病の患者さんを普段診ることが少ない一般歯科医師では視診(目で見て診察すること)だけでは判断しづらく、まして保護者の方が気づくことは非常に難しいのです。

できやすい歯肉膿瘍しにくのうよう

図3:FGF23関連低リン血症性くる病の患者さんにできた歯肉膿瘍(矢印の箇所)

(写真提供:大阪大学歯学部附属病院小児歯科 副科長/准教授 大川 玲奈先生 一部加工 転載禁止)

できやすい歯肉膿瘍

FGF23関連低リン血症性くる病の患者さんは、歯肉膿瘍しにくのうよう(歯ぐきが腫れたり膿が溜まったりする)を起こしやすい特徴があります(図3の黒矢印参照)。これは、FGF23関連低リン血症性くる病の患者さんの歯では象牙質の形成不全がみられることが原因です。エナメル質がすり減った結果、形成の悪い象牙質が口腔内に露出し、縦の亀裂を通して、口の中にいる細菌が歯髄腔(図1)まで到達してしまいます。歯髄腔に細菌が感染して、神経が死んでしまうと膿が溜まり、逃げ場がないため歯を支える骨をも溶かして歯肉膿瘍を形成します。男女で比較すると、骨の症状と同様に、男の子では症状が重く、歯肉膿瘍が多発する傾向があります。

通常のむし歯でも、進行すると歯肉膿瘍を形成することはあります。ただし、むし歯の場合は細菌が砂糖を分解して酸を産生し、エナメル質、象牙質と穴を開け、歯髄に炎症を起こし、最終的に神経が死んで膿瘍を形成しますが、FGF23関連低リン血症性くる病の患者さんではむし歯ではなく、象牙質の形成不全がもとで歯髄が細菌に感染し歯肉膿瘍が起こります。

歯肉膿瘍は放置NG

歯肉膿瘍は歯の根っこの部分に炎症が起きますので乳歯の下にある永久歯にもダメージを及ぼすことがあります。具体的には永久歯の形成に悪い影響が及び、色や形が悪くなる、ひどい場合は膿瘍が永久歯を圧迫して位置を変えてしまうこともあるため、放置してはいけない疾患です。

以前は歯肉膿瘍ができても「(どうせ生えかわるのだから)原因となった乳歯は治療しなくてもよい」と考える人もいました。しかし、歯肉膿瘍の悪化や抜歯によって健常児よりも早いタイミングで乳歯を失ってしまうと、咀嚼そしゃく機能(口に入れた食べ物を歯で噛み砕く働き)や発音機能の獲得に支障をきたすと考えられています。また、乳歯には永久歯が生えてくるための場所を確保してスムーズな生えかわりを誘導するという大切な役割があります。もし永久歯が生える前に乳歯を失ってしまうと、永久歯の生える位置が定まらず歯並びが悪くなったり、最悪のケースでは永久歯が生えづらくなるというトラブルにつながってしまいます。

治療は歯科で行われる一般的な方法で

歯肉膿瘍の治療自体は、歯科で行われるむし歯の治療と一緒で、まず歯に穴を開けて膿の逃げ場所を作り、抗菌薬で炎症をしずめます。既に歯の神経は死んでいますので、この処置は麻酔なしで行うことが多いです。膿は1週間程度でなくなるので、感染した歯髄や毛細血管組織などを取り除き、空洞になったスペースを乳歯専用の薬剤で埋めます。

毛細血管を取り除いた歯には栄養が届かなくなるため、さらにもろい状態となり、割れやすくなります。そのため永久歯が生えかわるまで歯を残すためには、歯全体に銀歯やプラスチックで被せた方がよいと考えられています。一回治療した歯でも再び感染することもあり、もし、同じ部位に歯肉膿瘍ができたときには上記の治療を繰り返しますが、永久歯に生えかわるタイミングや乳歯の状態等から判断して抜歯することもあります。歯の生えかわりよりも早く抜歯した場合には、生えかわりをスムーズにするために、永久歯の生えてくる場所を確保するための装置を装着することがあります。

歯科を選ぶ際には専門家を探しましょう

これまでお話ししたように、永久歯の生えかわるスペースや咀嚼機能、発音機能を獲得するためには、できるだけ乳歯を残す治療が望ましいです。また、歯肉膿瘍は痛みを伴わないことが多く、お子さん本人が気づかないこともあり、定期検診で歯肉膿瘍の有無や、永久歯の生えかわりが順調に進んでいるかどうか等を診断する必要があります。
受診する歯科を選ぶ際は、まずFGF23関連低リン血症性くる病の治療を受けている主治医と連携している歯科を紹介してもらうとよいでしょう。

低年齢のお子さんはコミュニケーションを取ることが難しく、また泣いたり、体が動いて治療が難しいこともあります。安全に治療するためにも、専門性のある小児歯科医が在籍している病院やクリニックを受診することをお勧めします。小児歯科の専門医が在籍している病院やクリニックを調べる場合は、公益社団法人 日本小児歯科学会のHPから検索することができます。また、かかりつけの歯科にかかる場合は、FGF23関連低リン血症性くる病であることや、歯にFGF23関連低リン血症性くる病特有の症状がみられる可能性があることを事前に相談することで、歯に影響することを伝えられますし、専門の歯科医師を紹介していただける場合もあるでしょう。

歯磨きと定期検診を忘れずに

家庭での歯のケアに、特別なことはありません。歯科医師や歯科衛生士に正しいブラッシングの指導を受け、食べた後は必ず歯を磨いて、就寝前には保護者の方が仕上げ磨きを行ってください。お子さんは口の中のトラブルに気が付きにくいので、仕上げ磨きのときに口の中を見て、歯ぐきに歯肉膿瘍がないか、歯が揺れていないか確認することをお勧めします。砂糖を取り過ぎないなど食生活にも気をつけてください。

ご家庭でしっかり歯のケアをしていても、象牙質形成不全は疾患によるものなので、残念ながら膿瘍ができてしまうことはあります。しかし、膿瘍を早めに治療していくことで、できる限り歯を残すことは可能です。早期発見のためにも定期的な検診が大切ですが、検診に行くペースは一人ひとりの状態によって異なりますので、歯科医師とよく相談してください。

永久歯が生えそろう小学校高学年ごろには、お子さんご自身にも、歯がもろく膿瘍を作りやすいことや、むし歯が進行しやすいことを理解してもらってください。むし歯にならないよう気をつけてもらい、口の中に普段と違う点を感じたら定期検診前でも受診するようにしてください。また、幼少期に歯肉膿瘍ができてしまった人では、永久歯になってからも歯肉膿瘍ができることがありますので、成人になっても定期検診を受け続けてください。成人になったり、就職など小児歯科を卒業するタイミングで、一般歯科を紹介してもらうとよいでしょう。

日本小児歯科学会

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