X染色体連鎖性低リン血症性くる病・骨軟化症(XLH)の通院を大人になっても継続する意義とは
くる病の中には、X染色体連鎖性低リン血症性くる病・骨軟化症(XLH*)に代表される遺伝性の疾患があります。成人後に症状が現れることがあるため、生涯にわたって治療を続けることが重要ですが、成人になるタイミングで通院が中断されるケースがみられます。成人後も合併症のモニターや治療を続ける意義、小児期医療から成人期医療へとつなぐ移行期医療(トランジション)、大人になっても通院を継続できる方法などについて、専門の先生にお話を伺いました。
*XLH: X-linked Hypophosphatemic Rickets/Osteomalaciaの略称
お答えいただいた先生
原田 大輔先生(JCHO(独立行政法人地域医療機能推進機構)大阪病院 小児科 医長)
目次
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大人になっても通院を継続することの重要性
XLHは特定の遺伝子に変異があり、
ただ、XLHは成長が止まると症状が落ち着くことが多いため、患者さんが「なぜ通院しなければいけないのか」と感じて通院が途切れることが往々にしてあります。また、まれな疾患であるために担当医師がビタミンD不足が原因のくる病と混同するなど疾患への理解が不十分で、成人を機に通院を止めてしまうケースもあるようです。
症状が治まったからといって通院を中断してしまうと、様々な弊害が出てくると考えられます。最も意識してもらいたいのは、XLHが世代を超えて診療しなければならない疾患である点です。患者さんにお子さんが生まれたとき、2分の1の確率で変異した遺伝子が引き継がれます。子どもが発症した場合、骨の
ただ、小児・成人共にXLHを診ることができる診療科は少ないのが現状です。大都市圏であれば専門的に診てもらえる医療機関や専門医はいますが、地域によっては疾患への理解があまり浸透していないところもあります。患者さん自身が通院を中断していて小児期に通っていた病院とのつながりが切れている状態だと、改めて治療できる医療機関を自ら探さなくてはなりません。
また、これまで診療してきた経験として、XLHは成長に関連する症状が落ち着いた後も、40歳ごろから
成人診療科は小児診療科と比べてXLHの診療経験がある医師がさらに少ないため、過去にXLH(またはくる病)と診断されたことを伝えないまま、近隣の整形外科などを受診して異なる疾患と診断されてしまうと、治療が遅れてQOL(生活の質)が下がってしまいます。
point
- XLHは生涯にわたって通院・治療を受ける必要があります。
- 通院を中断すると、様々な弊害(次世代が発症した場合に早期診断・早期治療ができない、成人後に合併症が出たときに治療が遅れるなど)が出てくると考えられます。
過去にXLHの治療をしていたが今は病院から離れている方へ
現在、背中や腰、膝などに痛みがあって悩まれている場合
もし中年から高齢にさしかかる時期に背中や腰、膝などに痛みが現れている場合は、過去にXLHの診断を受けて治療していたことを受診中の医療機関に説明してください。今はカルテが電子化されて破棄されにくくなっているため、小児期に通院していた病院に連絡を取って診療情報をやり取りしてみるのもよいでしょう。
症状が落ち着いている場合
通院できる環境であれば、症状が落ち着いていても(前述した合併症が出てくる可能性を考慮して)通院を再開してもらいたいです。そして、疾患がお子さんに引き継がれる可能性があることはぜひ知っておいてください。
ただ、繰り返しになりますがXLHを診ることができる医療機関はかなり限られます。当院小児科へ久しぶりに通院された患者さんの1人は、通院先を探していた中で医師から「XLHのことはよくわからない」と言われたそうです。地方にお住まいで近くに診てもらえそうな医療機関がない場合は、たとえ遠方であってもXLHを診療できる医療機関を頼ってみてください。そのような医療機関は遠方から通院する患者さんを診ている経験もあるので、通院の頻度やかかりつけ医との連携など患者さんに合わせた提案ができるはずです。候補の医療機関が見つかったら事前に電話で相談してみてもよいでしょう。
point
- 痛みなど症状がある場合は、過去にXLHと診断されていたことを医療機関に説明しましょう。
- 症状が落ち着いていても将来的に合併症が現れる可能性を考慮して、定期的な通院を継続してください。
- 適切な医療機関が近くにない場合は、遠方の施設も選択肢に入れましょう。
XLHにおける小児期から成人期への移行期医療(トランジション)とは
XLHのような疾患の通院・治療を継続するために小児期医療から成人期医療へつなぐ医療を移行期医療(トランジション)といい、医療のあり方は一般的に大きく3つのパターンに分けられます(図1参照)。
XLHは希少疾患なので治療経験に乏しい医師が多い中で、前述したように次世代に引き継がれる可能性があるため、患者さんを完全に成人期医療に移行させにくいという事情があります。そのため当院では基本的に小児科が主担当診療科となって診療しながら、必要に応じて成人診療科に入ってきてもらう形(図1の2)で対応しています。
図1 移行期医療(トランジション)のパターン
当院小児科では40年来この疾患を診ており、3世代にわたって通い続けているご家族も多くいらっしゃいます。両親、祖父母の世代の方々に対しては、明らかになってきている合併症や新たな治療法に関する情報、遺伝や治療を継続する意義などを説明し続けています。また、必要に応じて諸検査や治療薬を投与しながら合併症の評価、改善を目指しています。これらの対応の結果、医療機関との関係が途切れてしまう患者さんはあまりいません。
成人してから、進学や就職・転勤などで、小児期に通院していた病院から遠い場所で暮らしていたり、平日忙しかったりする患者さんは当院小児科に通院するペースを半年~最低年1回程度にし、その代わり普段は通いやすい医療機関へ通院してもらうようにしています。通院先の医療機関の多くはクリニックですが、紹介状を書くと快く診てもらえます。
両親、祖父母の世代の患者さんが治療の意義を理解した上で継続できているからなのか、自らお子さん(お孫さん)へ疾患について説明したり、通院するよう声がけしているようです。実際、遠方にお住まいの患者さんが「『子どもが生まれたら医療機関に相談しなければいけない』と言われていたから」と久しぶりに来院されたことがありました。
また、思春期ごろの患者さんは自我が出てきたり、メンタル面が不安定になるなどして通院に意欲が湧かないことが想定されます。診療していて通院するのが煩わしそうな中学生の患者さんと接することはありますが、親が通院し続けている姿を見ているからこそ本人も通院し続けていると感じます。こうした上の世代がお手本となっている点は、世代を超えて診療していることのメリットだと思います。
point
- 小児期医療から成人期医療へつなぐ医療(移行期医療)は大きく3つのパターンに分けられます。(JCHO大阪病院では)小児科が主担当診療科で、必要に応じて成人診療科も関与しています。
- 上の世代が通院し続けることが、下の世代のお手本になりえます。
今後移行期を迎える患者さんや保護者の方へ
多くの患者さんは思春期が終わると
成人後の小児診療科のフォローが難しい場合は、主治医と相談しながら患者さんご本人が治療歴および既往歴を話せるくらいの知識を持てていると、成人診療科でも、XLHの適切な治療を受けることができると思います。
一つ注意してほしいのは、小児診療科では成人した患者さんの健康全てを担保できないことです。定期的な血液検査は行っていますし、血圧が高い場合などは内科に紹介するなど関係する成人診療科と連携を取るようにしています。
しかし、小児診療科では成人病や腫瘍性疾患や循環器系疾患、一般的な内科疾患を見落とす可能性があることに留意することが必要です。たとえ小児診療科に定期通院していても、会社や自治体などの健康診断は積極的に受けてもらいたいです。
point
- 成長に伴う症状が落ち着く思春期が終わる頃から成人までは、通院しながらXLHについて学ぶチャンスです。
- XLH以外の疾患については、その疾患に関係する成人診療科を受診してみましょう。