FGF23関連低リン血症性くる病と診断された方へ
くる病のうち、FGF23関連低リン血症性くる病と診断された患者さんは継続して治療していく必要があります。お子さんが、り患している場合に保護者の方が注意したいこと、お子さん自身が成長したときに気をつけるべきことなどがわからず、不安になる方も多いかと思います。
こうした点について、専門の先生にお話を伺いました。
お答えいただいた先生
長谷川 行洋先生(東京都立小児総合医療センター 内分泌・代謝科 医師、多摩北部医療センター 小児科 医師)
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疾患のことはできるだけポジティブに捉えてほしい
お子さんが診断された保護者の方にはまず、「あまり心配しないで」と伝えています。この疾患はこれまでに集積されてきた経験が多くあり、患者さんにこの先どういうことが起こるかなど様々なことがわかっています。また、患者さんは他の人よりリン(の数値)が低くなりやすい体質ですが、この体質を変えられなくとも薬である程度まで治すことはできます。一部骨の変形の強いお子さんでも治療によって変形がきちんと矯正されてくれば、運動もできますし、友達と一緒に遊べるようにもなります。
保護者の方の心情に配慮しながら疾患のことを説明していきますが、私としては極端に言えば「病気だと思わなくてもよい」というような、できるだけポジティブな言い方をしています。
治療を続ける重要性を理解してもらう
体の状態をよくするためには、治療を継続することがなにより重要です。薬の使用を一回忘れてもすぐに影響がでるものではありませんが、それが何回も続くと体によくありません。治療を途中でやめてしまうと身長の伸びを改善できなくなりますし、足、膝、腰などが痛くなります。骨折が起きても治らず、後遺症で成人しても片足を引きずる、一見して歩き方がしんどそうになる、ひどい場合は車いすで生活することもあります。このような事態を避けるためにも、薬を飲むことを歯磨きと同じように習慣化してもらう必要があります。
子どもには年齢、理解力にあわせて疾患のことを定期的に説明し、治療の重要性を意識づけしています。高校生ぐらいの年には、どういう治療方針とするかについて一緒に考えられるくらいまでわかってほしいと思っています。
薬を飲むタイミングはお互いが納得した形で決める
この疾患の治療薬のリン酸製剤は、ミルクを飲む1~2歳ごろであれば日に4回は服用してほしいです。ただ「3回なら絶対飲ませられる」という保護者の方もいますから、そういう場合は3回からスタートすることもあります。この薬は食事前、食事後、決まった時間などに必ず飲まなければいけないというわけではなく、飲む回数が重要になります。1日のなかで薬を飲ませられるタイミングを保護者の方と相談してお互いが納得した形で進めていきます。
患者さんは成長していくなかで、自ら服薬を管理していかなければなりません。節目節目で「治療をやめるとどうなるか」という話をして一生続く日々の内服の重要性を説明し、高校生になるころには疾患をしっかり認識してもらえるようにしています。
来院時にはどのくらい薬を飲めているか確認していますが、もし100%でなかった場合は飲めない理由を尋ねて原因を探りながら、飲めるタイミングをお互い確認し合います。しっかり飲めるようになったら、私はちょっと大げさなくらい褒めています。
お子さんのなかには思春期ごろになると「なぜ自分だけが薬を飲まなきゃいけないのか」と感じて薬を飲まなくなる子も出てきます。私がその子に寄り添えるようであれば話を聞きますし、看護師など別のスタッフの方が良ければそちらからアプローチするようにしています。そのときは治療をやめたときのリスクも改めて強調するようにしています。
歯は一生モノなのでケアは重要
服薬管理に加えて保護者の方とお子さんに気をつけてほしいのは、歯のケアです。
この疾患は歯肉に膿瘍(歯肉周囲に膿みがたまる状態)ができやすく、むし歯も治りにくいので、乳児期から一般の方以上に歯を大事にし、ケアしていくことが重要です。保護者の方にもお子さんにも、歯をよく磨くよう指導しています。お子さんには「夜1回だけ磨くとかだけではダメだからね。歯のケアは一生ついて回るよ」と話しますし、歯で気になることがあったらすぐに保護者の方に伝えて歯科に行ってもらうようにしています。膿瘍などの治りがよくない場合には、より専門的な歯科を紹介することもあります。
運動はできる範囲であれば問題ない
運動に関しては、ほとんど骨の変形がみられない子は特に問題ないので「できることはなにをやってもいいよ」と言います。また、手術が必要なほどX脚やO脚の変形が強いお子さんは変形のある箇所に負荷がかかり過ぎるので「自分でできる範囲でやってね」と伝えています。
足の骨の変形が強い子が体を鍛えたい場合には、膝や股関節に負担をかけない方法で体幹を鍛えることを勧めています。私からやり方を教えることもありますし、今はインターネット上にトレーニング方法はいくらでも載っていますから、そこから取り組めそうなものを見つけて取り組むよう促しています。
部活動は競技レベルが高いところは厳しいかもしれませんし、特に、陸上の短距離走やハードル走は難しいでしょう。日常的な、楽しみの範囲で行うのであれば、ほとんどすべてのスポーツが行えると思います。
早い段階で疾患が遺伝することは伝える
FGF23関連低リン血症性くる病・骨軟化症のなかには、お子さんに遺伝する疾患もあります。私は患者さんにパートナーがいるかどうか確認して、もしいた場合には例えばX染色体連鎖性低リン血症性くる病・骨軟化症(XLH*)を発症した男性の場合は子どもが女の子だと必ず発症するなど、どのくらいの確率で遺伝するかを教えています。
*XLH:X-linked Hypophosphatemic Rickets/Osteomalaciaの略称
患者さんがパートナーと長く付き合う可能性がある場合には、遺伝のことも改めて説明しますし、そのことを治療している事実とともにパートナーへ説明するよう言います。病気のことを相手に理解してもらった上で一緒になってほしいですから。なお、生後1か月の早い段階でも来院してもらえればお子さんを診断することができること、早く診断できれば早く治療を開始できることも伝えています。
過保護になり過ぎないような意識を
この疾患を「病気だと思わなくてよい」と言っても、定期的に病院に通う状況などを考えれば、保護者の方がお子さんを心配するのは当然です。またこの疾患に限らず、一生治療が必要な慢性疾患が子どものときに見つかった場合は、病気をまず受け止めることに悩み、そして何とか無事に育ってほしいと思うものです。ただこの思いが行き過ぎると、常にお子さんのことを見ていて、何かあったらすぐ手を差し伸べてしまうようになり、結果としてお子さんの自立性や社会性を妨げてしまうようになります。
ぜひあまり心配し過ぎず、また極端に干渉し過ぎない、例えば、お子さんが転んでもすぐには手を出して助けないくらいが良いかと思います。過保護になり過ぎないよう、保護者の方には意識してほしいです。