~X染色体連鎖性低リン血症性くる病・骨軟化症~XLH Café 市民公開講座【2023年10月22日開催】
XLH Café 開催レポート
開催日 | 2023年10月22日(日) |
開催場所 | 大阪市開催+Zoomによるオンライン配信 |
2023年10月22日にX連鎖性低リン血症性くる病・骨軟化症(XLH)の方を対象とした市民公開講座「2023XLH Café」を開催しました。大阪市の会場に加え、オンラインにて患者さんとそのご家族の方々にご参加いただきました。
大薗 恵一先生の開会の言葉に始まり、第1部では海外の患者さんの出演動画を視聴後、道上 敏美先生から「低リン血症性くる病」について、今西 康雄先生から「低リン血症性骨軟化症」について、それぞれどのような病気なのか、その治療や暮らしていく中での注意点などについてご講演いただきました。第2部では「医師と患者の対話コーナー」と題し、事前登録の際や当日いただいた質問に対して、3名の先生方にご回答いただきました。
大薗恵一先生
- NPO法人ASridアドバイザリーボード
道上敏美先生
- 大阪母子医療センター研究所
- 研究所長・骨発育疾患部門部長
今西康雄先生
- 大阪公立大学大学院医学研究科
- 代謝内分泌病態内科学准教授
第1部 ~XLHを知ろう~
海外の患者さん出演動画 「X染色体連鎖性低リン血症性くる病・骨軟化症(XLH)と共に生きる」
ポルトガルに住む5歳のガブリエルは、突然変異によりXLHを発症した孤発(こはつ)*例です。両親はガブリエルが歩き始めの頃に脚が曲がってきたことで病気に気付きましたが、小児科医からは成長と共に改善すると言われていました。その後、脚の変形は悪化する一方であったため、3歳の時にさまざまな検査を受け、腎臓内科を紹介されたことでXLHの診断が下り、病状を把握することができました。
両親は「そのような知らせに対する心の準備ができていなかったため、診断結果を聞かされた時は殴られたようなショックを感じた。診断が下りるまでの1~2ヵ月は数年のように感じた」と話します。診断後はすぐに、医師からポルトガル国内の骨系統疾患の患者団体「ANDO」の紹介を受けました。特にXLHは珍しい病気のため、情報が限られています。同じ状況の親と知り合うことで普通の子供には起こらない経験を分かち合えることは重要です。両親は「情報を共有するだけではなく、子供の誕生会に互いに参加するなど、友情も育くんでこられた。孤独を感じなくて済んだ」と話します。
両親はガブリエルの行動について特に制限はしていません。体を動かすことにも積極的でサッカークラブに所属しています。チームにはガブリエルの病気と諸々の注意事項について最初に説明し、練習や試合に常に立ち会っています。今後いじめに苦しむかもしれない、周りがどう接するか分からない、など人間関係に関する心配はあります。両親はガブリエルに「私たちは皆、人と違うところがあり、その違いを受け入れて人を差別しないように」と教えています。
また、幼稚園で誰かとトラブルがあっても本人が話さないと分からないので、親子でオープンな関係を維持することでガブリエルが悩みを何でも打ち明けられ、それに対してアドバイスをしてあげられる関係を望んでいます。子供の治療のために仕事のスケジュールをやりくりする必要はありますが、XLHの子供との暮らしは覚悟していたほど難しくはなく、他の家族同様に普通に暮らしています。何が起こるか分からない不安はあるものの、両親にとって精神的に一番つらい時期は過ぎ、今はすべてを受け入れて前を向いて生きています。
最後に両親はガブリエルに望むことについて語りました。「治療を続ける必要があっても、ガブリエルにはXLHを気にせず、将来普通の青年や大人として過ごしてほしい」「望むのは幸せな普通の暮らしだけ。背が高くならなくても、ATMが使えて、カウンターに手が届くくらいの身長があって普通に暮らせれば十分」。両親はガブリエルが10年後に痛みや困難を抱えずに暮らせるように、今後XLHや治療法の研究が進むことを強く願っています。
*孤発(こはつ)例;親から子供に遺伝したのではなく、突然変異による病気を意味し、子供のみが発症した症例のこと
「低リン血症性くる病」
演者: 道上 敏美先生
(大阪母子医療センター研究所 研究所長・骨発育疾患部門部長)
骨は皮膚と同じように常に新しく生まれ変わっており、古い骨が壊されて新しい骨が作られる、ということが繰り返し行われています。新しい骨が作られる際には、コラーゲン線維を中心とする枠組みに、カルシウムとリンが集まって作った結晶が沈着し、コーティングしていくこと(石灰化)でかたく丈夫な骨になっていきます。くる病・骨軟化症は、何らかの原因で骨の石灰化が妨げられてしまう病気です。石灰化が妨げられた骨は、やわらかくて変形してしまったり、折れやすくなったりするため、痛みが生じます。この石灰化の障害が子供の時に生じる場合を「くる病」、大人になって生じる場合を「骨軟化症」と呼んでいます(参考記事:くる病・骨軟化症とは)。
くる病・骨軟化症の原因は、ビタミンDの働きが足りないことによるものと、リンが足りないことによるものとの2つに分けられます。リンが足りないことによって起こるくる病・骨軟化症は、血液検査でリンの値が低いため「低リン血症性くる病・骨軟化症」と呼ばれます。「低リン血症性くる病・骨軟化症」の原因はさまざまですが、最も患者さんが多いのが「XLH」という病気です。XLHは、30年ほど前に、PHEX(フェックス)という遺伝子の変化が原因で起こることがわかりました。
さらに、XLHにおいては、PHEX遺伝子の働きが失われることによって、骨が作る線維芽細胞増殖因子23(以下、FGF23)というホルモンが過剰になり、さまざまな症状を引き起こすことが明らかになりました。リンは体にとってとても大事な栄養素であり、多くの食物に含まれています。体の中で使われなかったリンは尿として排泄されるのですが、作られたばかりの尿(原尿)に含まれるリンの一部はもう一度体の中に戻され、再度利用されます。その際に、リンをどのくらい尿として体の外に排泄するかを調節しているのが腎臓です。FGF23は腎臓に働いて尿中へのリンの排泄を増加させたり、ビタミンDを作用のある型(活性型)にするのを抑えることで腸からのリンの吸収を減少させたりします。結果として、XLHの患者さんではFGF23が多いために、血中のリンが少なくなり、健康な骨を作ることができなくなります。
お子さんの場合、主な症状として、O脚やX脚、歩き方がぎこちなくて揺れる、脚を引きずって歩く、身長の伸びが悪い、他の子より小柄、などがみられます。これらの症状に加えて、血液検査で血清リン値が低く、骨の中の細胞の働きに関わるアルカリホスファターゼの値が高い場合に、くる病を疑います。その他、骨のレントゲン検査で軟骨のある箇所が広がったり、毛羽立って見えたりなどの特徴的な所見がないかをチェックします。(参考記事:くる病の症状)さらに、現在では血液中のFGF23が保険で測定できますので、XLHなど、FGF23が過剰なためにおこる「FGF23関連低リン血症性くる病」の可能性があるかどうかも調べることができます。
くる病の治療の目標は、O脚やX脚を改善して、成人になった時の身長ができるだけ低くならないようにすることです。治療法として、従来はリン製剤や活性型ビタミンD製剤の内服が行われてきましたが、近年、FGF23の働きをブロックする作用を持つ注射剤も使えるようになり、治療選択肢が増えました。治療は継続的に行うことがとても重要です。痛みがなくなったからといって治療をやめてしまうと、身長の伸びが改善できなくなったり、脚や膝、腰などが痛くなったり、骨折がなかなか治らずに曲がってしまったりすることもあります。十分に治療ができていれば、脚の変形などの程度に応じてお子さんの可能な範囲でスポーツなどをやっていただいても構いません。
治療効果の評価、副作用のチェックのためにも、定期的に血液・尿検査を受けるようにしましょう。治療を続けるためにはモチベーションの維持が必要なので、そのためにもお子さんの年齢・理解力に合わせて病気について学んでいただき、なぜ治療が必要なのかを理解して自主的に治療に取り組めるようにしていくことが重要だと思います。また、くる病の患者さんは骨と同じように歯がもろいので、虫歯になりやすいという特徴があります。中には、歯ぐきが腫れて膿がたまる歯肉膿瘍(しにくのうよう)を生じる方もいらっしゃいます。そのため、適切な歯磨きを行い、歯ぐきの状態や歯肉膿瘍がないかをチェックし、定期的に歯の検診を受けた方がよいでしょう。小児歯科の専門医がいる歯科(参考記事:FGF23関連低リン血症性くる病の患者さんが意識したい歯のケアについて)が望ましいですが、かかりつけの歯科医にかかる場合はくる病であることをお話しいただくと、治療の際に配慮していただけるのではないかと思います。
最後に、低リン血症性くる病は、成長期が過ぎたらもうこの病気は関係ないというものではありません。骨折しやすかったり、合併症が出てきたりするなどの問題もありますので、成人になってからも定期的に病院に通っていただくことが大切です(参考記事:X染色体連鎖性低リン血症性くる病・骨軟化症(XLH)の通院を大人になっても継続する意義とは)。成人し、就職や結婚で遠くに行かれたりすることもあるかと思います。そのような時に医療が途切れてしまって、体調が悪くなったらどこに行ったらいいか分からないということが起こらないように、どのような形で治療や管理を続けていくのか、主治医とよく相談していただくことをおすすめします。
「低リン血症性骨軟化症」
演者: 今西 康雄先生
(大阪公立大学大学院医学研究科 代謝内分泌病態内科学准教授)
骨折しやすい病気の代表格として骨粗鬆症があります。くる病・骨軟化症も骨折しやすい病気ですが、骨軟化症と何が違うかというと、骨の成分が異なります。骨には赤血球や白血球を作っている骨髄、骨のかたい部分である石灰化部、これから石灰化するやわらかい類骨があります。骨粗鬆症は石灰化部と類骨が同じように減っていて、骨密度が低下した状態、骨がスカスカで折れやすい状態です。一方、くる病・骨軟化症は石灰化部が減って、類骨が増えてしまいます(参考記事:くる病・骨軟化症とは)。
骨が非常にもろくやわらかいのでポキッと折れるというよりも、ひびが入った偽骨折(骨を横断しない骨折)の状態になります。骨の強度は骨密度と骨質で決まるのですが、骨軟化症の方は骨質が低下しています。大人になって骨密度はそれほど悪い値ではなくても、骨軟化症による骨の折れやすさがある点が重要なポイントです。XLHはきちんと治療をすれば、骨質が改善し、強度が回復して骨が折れにくくなる、ひびが入っているのであればそれが修復されるため、痛みが改善する可能性があるということです。
一部の骨粗鬆症治療薬は原発性骨粗鬆症と、くる病・骨軟化症の両方に効果があるのですが、中にはくる病・骨軟化症をかえって悪化させてしまうリスクのある薬剤もあります。そのため、もし皆さんが高齢になられて、骨粗鬆症かもしれないと整形外科に行った時には、「くる病・骨軟化症がある」ということを伝えないと合わない治療法を選択されてしまうかもしれません。病院を受診した時は、ためらわずに今までの病気についてきちんと医師に知らせることが非常に重要です。
日光照射が乏しい、栄養状態が悪いなどが原因のくる病・骨軟化症の場合は、皮膚に紫外線を浴びたり、食事で天然型ビタミンD3の豊富なきのこ類をしっかりとったりすると、天然型のビタミンDが体内に入ります。それが体内で代謝されて1,25水酸化ビタミンD3という活性型になって働きます。(参考記事:くる病・骨軟化症の3つの原因と疾患)。
しかし、FGF23が過剰になっているXLHの患者さんはそういうわけにはいきません。FGF23はビタミンDが活性化するのを邪魔するので、一生懸命日光を浴びても、食事やサプリメントで天然型のビタミンDを摂取してもビタミンDが活性化されないため、効果が得られません。このように天然型のビタミンDで治療効果が乏しいために「ビタミンD抵抗性くる病・骨軟化症」という病名が付き、さらにFGF23が原因ということが分かって「FGF23関連低リン血症性くる病・骨軟化症」という病名が付いたのです。その本質は、しっかりと活性型ビタミンDをとるか、FGF23を下げる治療をしないと根本的には骨がよくなりにくい病気ということになります。FGF23が過剰の場合、小腸ではカルシウムやリンの吸収が低下し、腎臓ではリンの尿への排泄量が増えます。リンは骨の石灰化の大切な要素なので、血液中のリン濃度が低下すると、石灰化できずにくる病・骨軟化症になります。
XLHは女性に多い疾患です。具体的な症状としては、小さい頃の骨の痛み、変形、骨折のしやすさなどがあります。(参考記事:骨軟化症の症状)小さい頃に十分な治療効果が得られていないと、大人になった時の身長が低くなります。また、大人になって治療を中断してしまうと、さまざまな部位の骨折頻度が一般の人に比べて多くなります。その他、骨以外が石灰化してしまう「後縦靭帯骨化症(こうじゅうじんたいこっかしょう)」になると指先がしびれて日常生活に支障が出てしまいますし、歯のトラブルもとても多いです。耳鳴り、難聴などが起こることもあります(参考記事:FGF23関連低リン血症性くる病・骨軟化症とは?)。
このような症状から考えるとXLHの患者さんは大変な生活をしていると思うのですが、生活の満足度調査では「ふつう」と回答した方が3割ほどいらっしゃいます。症状はたくさん出ているのですが、小さい頃からこの病気と共に生活されているので調子が悪いことに慣れてしまい、いい状態を体感していないためQOLが低下していることを自覚できていないのです。これにより、治療継続への優先度が低下し、大事に至ってしまうというリスクがでてきます。そのため、ご自身の自覚症状はあまりあてにならないんだな、思ったよりも病気の状態が悪いのかもしれないな、と考えていただきたいと思います。
成人期には特に痛みに対して治療をします。治療の選択肢としてはリンや活性型ビタミンDの内服、FGF23を抑える抗体治療薬の注射があります。治療薬には一長一短ありますので、さまざまな人生のステージにおいて、どのような治療を行うか医師と相談したうえで、治療が途切れてしまうことだけはないようにしていただけたらと思います(参考記事:X染色体連鎖性低リン血症性くる病・骨軟化症(XLH)の通院を大人になっても継続する意義とは)。大人になった後も治療を継続し、定期的に検査をして様子をみることが必要です。きちんと治療することによって、体調が「一番いい状態」を感じることができるかもしれません。
第2部 医師と患者さんの対話コーナー
Q:症状があまりないため定期的に通院していないのですが、理想的な通院や診療パターンについて教えてください。
A:
(道上先生)XLH患者さんの場合、症状に強い弱いがあったり、お仕事や学校が忙しかったりして、必ずしも病院に⾏けないことがあると思います。そのような場合にも、患者さんが参加できるこのような講演会や「くるこつ広場」で情報を得ていただき、「どういう症状がでてきたらこの病気と関連しているのか」を知っておいていただくと、体調不良があると感じた時に、もともとかかっていた主治医の先⽣にご連絡いただけます。くるこつ広場ではどのような先⽣が地域で診療に関わっているか検索できますし、医療とつながっていただくことが重要です。「⻑いこと病院に⾏っていなくて主治医に申し訳ない」「ハードルが⾼い」などと考えないでください。必要な時に必要な医療を受けていただけるように、ためらわずに病院に⾜を向けていただければよろしいと思います。
(今西先生)多くの成人患者さんは、⼩児期は⼩児科の先⽣に診ていただいています。その後、症状の安定に伴って治療が中断されることが⾮常に多いと思います。そうすると、知らない間に⾻が悪くなっている、症状がでているんだけれどもなかなか⾔い出せない、ということがあるので、思いついたらまず受診いただくこと、そして検査を受けて今の状態を把握することが⼤切です。特に飲み薬をのんでいなくても年に⼀回程度の頻度で受診し、⾎液の検査、⾻密度の検査、その他必要に応じてレントゲンの検査を受けることをおすすめしています。その時症状をお聞きして、飲み薬をはじめましょうかとか、注射治療をはじめましょうか、というご提案をさせていただくと思います。躊躇されずになんでもおっしゃっていただくことが⼤切です。
(大薗先生)小児については、くる病の原因としてビタミンD⽋乏性くる病とFGF23関連低リン⾎症性くる病の2つに⼤別できるのですが、患者さんの数はビタミンD⽋乏性くる病が圧倒的に多く、XLHと診断をつけないまま経過を観察されてしまうケースがあります。症状が改善していない点があるのであれば、相談いただくのがよいと思います。
成人については、指定難病に指定されていますが、軽症の方や通院していない方はきちんと診断されていないケースもあるため、きちんと検査を受けていただくことが望ましいです。
Q:出産はあきらめた方がよいでしょうか?
A:
(今西先生)XLHの患者さんの中には、お⼦さんをもうけられている方々がたくさんいます。⼀般的に、妊娠中は⾻からカルシウムがとられてしまい骨が弱くなってしまうので、いわゆる活性型ビタミンDを補充することがあります。また、妊娠により腎機能が不安定になることもあるので細かく薬剤の量を調整しています。産婦⼈科に通院するのと同じか、それより多い頻度で通院いただき、おくすりの微調整をさせていただくことになります。出産された後はまた元の治療に戻りますので、出産を諦めていただく必要はまったくございません。
(大薗先生)出産を考えるにあたり、XLHを正しく診断いただくということも大切です。遺伝性疾患である場合に、どのように遺伝するかについて事前にカウンセリングを受けた方がよいと思います。また、妊娠中は使用できない治療薬もあるので、主治医と相談して計画的に考えられるとよいですね。
Q:夫婦共にXLHの変異を保因しておらず、第1⼦がXLHを孤発的に発症した場合、第2⼦もXLH を発症する可能性は高いのでしょうか?
A:
(道上先生)⼀般的には、ご両親が採⾎して遺伝⼦検査をされて変異がなく、お⼦さんに変異がみつかってXLHと診断された場合、次のお⼦さんがXLHになるということはありません(稀に、モザイクといいまして、卵巣や精巣で少しだけ変異を持っているような卵⼦、精⼦を持っている方の場合には完全にないとは⾔えません)。
(大薗先生)まだ公的な⽀援を受けられていない難病がたくさんある中で、XLHに関しては1995年に原因遺伝⼦が分かり、FGF23 が発⾒され、2019年にFGF23抗体薬が承認されたというように、研究の進歩が感じられる疾患です。ただ、皆さんが病院に行った際に、すべての医師が知っているかといえばそうではありません。皆さん自身にも知識を増やしていただき、かかりつけ医や専門医に相談してもらうのがよいと思っています。